福島の小児甲状腺がん「数十倍のオーダー」 県民健康調査の部会

Fukushima

福島原発事故時に18歳以下だった子どもたちの甲状腺がん検査をめぐって、福島県の県民健康調査の甲状腺の専門部会が3月、「甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病者数に比べて数十倍のオーダーで多い」と評価した。原発事故後の住民の健康を調査している専門部会が初めて、事故前とは異なる結果になっていると指摘した。

福島県は、事故後の放射線の影響を継続的に調べるため、県民健康調査を実施している。調査を取りまとめているのは、専門家らでつくる県民健康調査検討委員会だ。検討委員会には、甲状腺がんの専門家らの甲状腺検査評価部会が設けられている。

「数十倍のオーダー」とする評価は、今年3月に甲状腺検査評価部会がまとめた「甲状腺検査に関する中間取りまとめ」に盛り込まれた。福島県は、子どもたちの甲状腺の状態を調べる「先行検査」を2011年10月から実施。先行検査の結果を、甲状腺がんの専門家たちが評価した。

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甲状腺検査評価部会「中間とりまとめ」

先行検査では、今年3月時点で、29万9,233人の検査結果が確定し、112人が「悪性ないし悪性疑い」と診断された。

対象 2011年3月11日時点で概ね0歳〜18歳の福島県民
検査結果確定 299,233人
悪性ないし悪性疑い 112人
うち手術済み 99人
乳頭がん 95人
低分化がん 3人
良性結節 1人

[2015年3月31日現在]

この結果について、「中間取りまとめ」は次のように記している。

こうした検査結果に関しては、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。

部会内では検査結果について、「過剰診断の面も考えられるとの意見が多くあった」という。

治療しなくても発症せず、生命に影響しないがんは一定の割合で存在し、こうしたがんを治療することは、患者の利益にならないことがある。こうしたケースが、過剰診断と呼ばれる。

中間とりまとめは、過剰診断の可能性と、先行検査は今後重症化する可能性があるがんの早期発見につながったとする、二つの意見を併記している。

この解釈については、被ばくによる過剰発生か過剰診断(生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断)のいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見があった。

一方で、過剰診断が起きている場合であっても、多くは数年以内のみならずそれ以降に生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりするがんを早期発見・早期治療している可能性を指摘する意見もあった。

部会メンバーの国立がん研究センターの津金昌一郎氏は昨年11月、資料「福島県における甲状腺がん有病者数の推計」を、甲状腺検査評価部会に提出した。

この資料は、2001年から2010 年のがん罹患率の全国推計に基づき、2010年時点の福島県内の18歳以下の甲状腺がん患者数を推計したものだ。推計によれば、2010年時点で、同県内の18歳以下の甲状腺がん患者は2.1人(男性0.5人、女性1.6人)。すでに手術を受けた99人と比較すると、約47倍となる。津金氏はこの資料の中で、早期に診断したことによる上乗せを否定する見解を示している。

今回の検査がなければ、1~数年後に臨床診断されたであろう甲状腺がんを早期に診断したことによる上乗せ(いわゆるスクリーニング効果)だけで解釈することは困難である。

福島の動きを政府はどうみているのか。

首相官邸のウェブサイトは、「福島県民の皆様へ」との題で、ロシアのビクトル・イワノフ教授の2014年1月14日付のメッセージを掲載している。小児甲状腺がんと福島原発事故の因果関係を全面的に否定する内容だ。メッセージは福島県立医科大学の山下俊一副学長が翻訳した。

  • 放射線誘発小児甲状腺癌の潜伏期は5年以上である。
  • 放射性ヨウ素 (I-131) による甲状腺被ばく線量が150~200mGy以下では小児甲状腺癌の有意な増加は検出できなかった。
  • 大規模なスクリーニングを行なった場合、甲状腺癌の発見頻度はチェルノブイリ事故により汚染されたか否かに関係なく、いずれの地域でも6~8倍の増加がみられた。

以上3つの(チェルノブイリでの)疫学研究の結果から、福島県で発見された小児甲状腺癌は福島での原発事故により誘発されたものではないと一般的に結論できます。

 

これに対して、甲状腺検査評価部会は、より慎重な姿勢だ。「中間取りまとめ」の中ではおもに次の提言を示した。

  • 被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、事故当時5歳以下からの発見はないことなどから、放射線の影響とは考えにくいと評価する。しかし、放射線被ばくの影響評価には、長期にわたる継続した調査が必須である
  • 二次検査以降の医療費については公費負担が望ましい。
  • 甲状腺検査の対象者、特に、事故当時の乳幼児については、甲状腺がんの発生状況と生命予後についての追跡調査が重要
  • 甲状腺がん(乳頭がん)は、発見時点の病態が必ずしも生命に影響を与えるものではない(生命予後の良い)がんであることを県民にわかりやすく説明したうえで、ひばくによる甲状腺がんの増加の有無を検証可能な調査の枠組みの中で、現行の検査を継続していくべきと考える

このうち医療費について福島県は6月23日、治療や経過観察が必要とされた人の医療費の自己負担分を全額支援すると発表している。

[注]執筆にあたっては、「DAYS JAPAN」の2015年7月号に掲載された、おしどりマコ氏による『特集 福島の小児甲状腺がん 福島県「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」 小児甲状腺がん「多発」認める』を参考にしました。

Source: 放射線医学県民健康管理センター