【政府事故調聴取録を読む2】駐日英国大使館の担当者 避難誘導の経緯、日本の広報の問題点など

Investigation

「政府事故調聴取録を読む」の5回目として、駐日英国大使館の担当者の聴取録を掲載する。東北を中心に、日本国内に在住する英国人の避難誘導など、大使館の対応について詳述している。日本の広報の問題点も指摘した。

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)は、772人の関係者から聞き取りを実施した。政府は、聴取結果書(聴取録)を順次公開しており、2015年5月14日現在、241人分の聴取録が閲覧できる。

聴取録は、福島原発事故への理解を深めるうえで、なお第一級の資料であることから、当プロジェクトは、聴取録の読み解きを進めている。

読み解きにあたっては、国会事故調、政府事故調、民間事故調の各報告書を基礎資料とし、プロジェクトのテーマである「わかりやすい」を追求する。プロジェクトが聴取内容に挿入する、補足的な記述は太字で記載する。また、必要に応じて、文脈に影響しない範囲で、一部の記述を削除、難解な漢字をひらがなにするなど、最小限の編集を加えている。

聴取対象者:駐日英国大使館(氏名は黒塗り)
聴取日:2012年1月26日
聴取内容:在日英国市民の避難状況、日本の情報提供等について

【ポイント】

  • 地震発生翌日以降の英国人の避難誘導
  • 在日英国人に対し、安定ヨウ素剤を約1万1千錠配布
  • 東京電力に対して、安定ヨウ素剤の提供を申し入れ
  • 日本政府の広報の問題点
  • 「日本政府は非常に厳しい状況において奮闘はしていたと思うが、だめだったとも良くやったとも言えない。ただ、我々が同じ立場だったら、同じようになっていたと思う」

 

【駐日英国大使館の対応】

2011年3月12日 福島在住の英国人に電話連絡
同日~4月16日 必要がなければ東京以北に渡航しないよう勧告
3月18日 英国の専門家が来日
3月中旬~下旬 東京電力に対し、安定ヨウ素剤の提供を申し入れ
4月16日 東京などを勧告から除外

発災翌日の3月12日以降、英国大使館は仙台からバスを出し、避難を希望する在日英国人の移送をはじめた。「刺激的」だったため、避難指示は出さなかったという。約150人がバスで避難。日本からの出国希望者には、チャーター機を準備し、120人が出国した。

1 在日英国市民の避難

3月12日、英国大使館は、福島県在住の英国市民に対して直接電話連絡をすることにより、日本政府の出した避難指示に従うよう連絡した。

また、同日、1号機建屋水素爆発後、英国大使館は、原発の状況の他、燃料調達、情報通信、インフラの混乱を全て考えて、東京以北にいる英国市民に対して、東京以北から離れることを考えて欲しい(should consider leaving)との勧告を出した。

その際、英国大使館とロンドンの英国外務省は、日本の警察や消防が適切に避難指示を出していると認識していたし、日本政府から原発の状況が決定的に危ない旨の情報も来ていなかったので、そのような状況で英国が、別により広範な避難指示を出してしまうことは刺激的で(黒塗り)英国大使館は、避難指示を出さなかった。

私は、避難を希望する英国市民を仙台のホテルに集合させ、そのホテルからバスに乗せて東京へ連れてきた。大使館から避難勧告対象地域在住の英国市民に対して電話連絡をして、避難希望の有無を聞き、仙台から東京へバスによる輸送を行っていることや、東京から英国へのチャーター便を用意している旨を伝えた。

3月12日、私は、英国大使館から出発し、仙台でバスを何台か用意して、そのバスで英国市民を東京へ輸送した。

3月12日の最初の便では、約70名が東京へ避難し、その次の便では約30人、最終的には150名くらいが東京へ避難したと思う。

私は、確か18日頃に最終便で東京に戻ったが、その時は、日本政府が30kmの避難勧告を出しており、英国人の専門家(ベデイントン教授、下記4参照)も30km内には相当量の放射
性物質が拡散する可能性を指摘していたため、念のため、福島県を迂回して新潟をとおって東京に戻ったので、14時聞かかった。

また、出国希望者のために、英国へのチャーター機を2使用意したが、結局出国したのは合計で120名程しかいなかった。

3月12日から4月16日の間、東京以北への渡航を制限する勧告を出している。

2 日本への渡航制限

3月12日から4月16日まで、英国外務省は、北海道以外の東京以北の地域につい
て、必要なければ渡航しないことを勧める(黒塗り)渡航情報を出した。

4月16日には、東京などをその対象から外し、東北地方だけがその対象となっている。

日本の外務省から、駐日英国大使館に対してほぼ毎日、情報提供があった。

3 日本からの情報提供

原発事故に係る情報は、外務省西欧課から英国大使館に毎日の様に連絡されていた。外務省も忙しい中で色々な情報をくれたことに感謝しているし、その情報の内容にも満足している。その情報をまとめ、福島県、岩手県、宮城県の英国市民に対してはできる限り彼らに必要と思われる情報を電話等により連絡していた。

日本の状況を分析していた英国の専門家は、放射性物質の飛散が500メートル~1,000メートル程度だったため、30キロ圏内の避難で安全が確保されていると判断していた。

4 英国専門家の分析

原発事故後、英国政府の科学担当チーフアドバイザーのジョン・ベディントン教授(Sir Johm Beddington)は、ロンドンにおいて、駐日英国大使館の情報及び英国政府が別途保安院や外務省から手に入れた情報を基に、原発事故による放射能汚染状況を分析していた。

英国政府は、駐日英国大使館から送っている情報以外にどのように情報収集していたかは分からないが、保安院と別途連絡を取っていたのだと思う。

3月16日、ベディントン教授は、私(黒塗り)と電話会談を行い、今の原発事故についての分析について話し合った。ベディントン教授は、悪いケースから良いケースの3段階のケースを想定し、それぞれのケースについて、どのような対応が必要であるかの説明をした。

ワーストケースは、原子炉がメルトダウンを起こして、再び水素爆発を起とすというものであり、そのケースでは、東京は放射能を含んだプルームが東京に流れた場合に、一時的に屋内退避をして安定ヨウ素剤を服用すれば問題ないという想定であるものの、ワーストケースになる可能性は限りなく低いとベデイントン教授は説明した。

さらに、ベディントン教授は、チェルノブイリは爆発により放射性物質が30,000フィート(約11,500メートル)上空に舞い上がったが、それと比べて福島の場合は、ワーストでも放射性物質が500~1,000メートルしか上空に舞い上がらないので、30kmの避難で安全は担保されている旨の説明もしていた。

私は、その会談終了後直ぐに、その会談録を大使館HP、Twitter、FaceBookに載せたため、その後日本の状況について、英国の他の専門家がベディントン教授と異なる意見が出ることがずいぶん少なくなり、ベディントン教授の考えに意見集約されていったと感じた。私は、他のヨーロッパ諸国の大使館員からも大変参考になった旨の話を受けた。

他にも、確か3月18日くらいに英国本国から3人ほど専門家が来て、実際に大使館の周りでモニタリングしたところ、全く問題のない数値であったため、そのことも英国大使館にとっては安心材料のーっとなった。

私は、その旨を、説明会などで、在日英国市民に対して説明した。それでも、まだ日本に残った英国市民にとっては不安が残っていた状況であり、私(黒塗り)たちは何度も説明会を開いたり、電話で在日英国市民からの質問に答えたりした。

私は、ベディントン教授の分析や、英国の専門家のモニタリング結果から、日本政府の避難指示どおりで問題ないと思っていた(黒塗り)

英国大使館は、米国、ニュージーランド、EU諸国の駐日大使館と情報交換を継続していた。「特に、米国は情報をたくさん持っている」と語っている。

5 他国大使館との情報共有

(黒塗り)は、EU諸国の大使館員同士で原発事故に係る情報交換をしたり、米・豪・ニュージーランドなどの大使館員同士で原発事故に係る情報交換をしていた。特に、米国は情報をたくさん持っているので、米・豪・ニュージーランドとの情報交換は非常に有用であった。

駐日英国大使館は、東京電力に対して安定ヨウ素剤の提供を申し入れている。在日英国人には安定ヨウ素剤を配布した。

6 日本の支援受入について

(黒塗り)は、外務省西欧課の職員と1日に何回も連絡を取っていて、その職員なしでは調整は不可能だったと考える。その意味では、その職員には非常にお世話になったと思っている。

(黒塗り)

外務省は、どこの地域にどの物資が不足しているかなど、各地の状況をきちんと把握していたので、支援物資をどこにどれだけ提供するということは直ぐに調整をとっていた部分について、私は、外務省の調整はよかったと思っている。

三つ目は、英国は安定ヨウ素剤を大量に保有しており、TEPCOにもFukushima fiftyなどがおり、安定ヨウ素剤の需要があると思っていたので、確か、3月の中旬から後半くらいに、安定ヨウ素剤の提供をTEPCOに申し入れた(黒塗り)

Fukushima Fiftyは、爆発が相次ぐ中、福島第一原発内にとどまった東電職員ら50人は「フクシマ・フィフティー」と呼ばれ、国内外のメディアが賞賛した。実際には50人以上がとどまっていた。

日本にいる英国市民に対して、合計安定ヨウ素剤を何人に対して配付したかは分からないが、子供1人当たり2錠、大人1人当たり4錠配付しており、合計では11,459錠配布している。

また、他国の大使館員にも要望があれば配付していた。私(黒塗り)は、配付するときには、「今飲む必要はなく、今後おそらく飲む必要はないと思う。仮に、欽む必要が出た時には、直ぐに英国大使館HPにその旨アップする」旨を説明しながら配付した。

駐日英国大使館の担当者は、日本の広報対応について、「わかりづらい」と問題点を指摘している。統一的な広報対応が課題だとしている。

7 日本政府の情報提供状況

私は、日本の記者会見の中で、他の国とは尺度が違うことに因惑することがあった。100Bqと言われでも、どのくらいの程度のものであるかが分からなかった。

また、通常の何万倍の放射能量が出ているど言われても、それが安全であるかどうか分からなかった。日本は、一般の人々が分かりやすいプレスの仕方を考えた方がよいと思う。

(黒塗り)は、日本政府は非常に厳しい状況において奮闘はしていたと思うが、だめだったとも良くやったとも言えない。ただ、我々が同じ立場だったら、同じようになっていたと思う。

また、日本の記者会見は最初官房長官、保安院、TEPCOとわかれて実施されており、若干ニュアンスが違う場合もあったので、私たちにとっても分かりづらかったし、日本の方々にもわかりづらかったのではないかと私は思う。

私は、地震後しばらくしてから記者会見が統合されたことはよかったと思う。

英国でも、緊急時に、危機対応をする機関が総理府にできるのだが、緊急事態の種類によって、特別な機関ができることもある。私は、英国の方も、記者会見を行う際に、統ーした体制が取れるよう考えておかなければならないと(黒塗り)思った。

Source: 内閣官房

(小島寛明)