【政府事故調聴取録を読む1-2】事故対応全般|当時の首相・菅直人氏(2)

Investigation

「政府事故調聴取録を読む」の2回目として、菅直人・元首相の2本目を掲載する。

 

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)は、772人の関係者から聞き取りを実施した。政府は、聴取結果書(聴取録)を順次公開しており、2015年3月26日現在、計236人分の聴取録が閲覧できる。

聴取録は、福島第一原発事故への理解を深めるうえで、なお第一級の資料であることから、当プロジェクトは、聴取録の読み解きを進めていきたい。

読み解きにあたっては、国会事故調、政府事故調、民間事故調の各報告書を基礎資料とし、プロジェクトのテーマである「わかりやすい」を追求する。プロジェクトが聴取内容に挿入する、補足的な記述は太字で記載する。また、必要に応じて、文脈に影響しないと判断できる範囲で、一部の記述を削除、難解な漢字をひらがなにするなど、最小限の編集を加えている。

聴取対象者:菅直人氏(事故当時の首相)
聴取日:2012年4月3日
聴取内容:事故対応全般について

【ポイント】

  • 菅首相の初動対応
  • 原子力緊急事態宣言に関する菅首相の認識
  • 電力会社と原子力・安全保安院の知識格差

【地震発生後の菅首相の初動対応】
14時46分 地震発生、菅首相は参議院から官邸へ戻る
15時37分 第一原発、全交流電源喪失
16時14分 緊急災害対策本部を設置
16時36分 官邸対策室を設置
16時45分 東電、第一原発の全電源喪失を原災法15条に基づき経産相に通報
17時ごろ 菅首相、東電、保安院から第一原発の状況の説明を受ける
17時42分 海江田万里経産相、原災法15条事象を菅直人首相に報告
時刻不明 菅首相、党首会談に出席
19時03分 原子力緊急事態宣言を発令

 


今回の焦点は、原子力緊急事態宣言発令のタイミングに関する菅首相の認識だ。17時42分、首相は経産相から福島第一原発の全交流電源が失われているとの報告を受けた。その直後、首相は党首会談などに出席し、原子力緊急事態宣言の発令が約1時間20分後の19時03分までずれ込んだ。

【質問者】
3月11日の14時46分に地震が発生いたしまして、初動はどんな動きなり、どんな御認識があったのかということについてお伺いできればと思っております。まず、地震が発生しましてから、海江田大臣が原災の関係で緊急事態宣言を上申されたのが11日の17時42分ごろと聞いておりますけれども、そのころまでの動きにつきまして御説明いただければと思います。

海江田大臣は海江田万里経産相。菅首相は地震発生時、参院の委員会に出席中だった。

【菅前総理】
震災が発生した14時46分には、私は参議院の決算委員会で答弁席に座っておりました。大きな揺れが一旦収まって、委員長から休憩が宣告されまして、官邸に戻り、たしかその足で地下の危機管理センターに入りました。

まずは、地震、津波についての緊急災害対策本部を、私の記憶によれば16時14分に設
置をし、15時37分には第1回の地震、津波についての緊急災害対策本部を開催いたしました。原発については、当初はいわゆる緊急停止ができたということを伝えられておりましたが、その後、全交流電源が喪失をしたという知らせが経産大臣にやってきて、更に非常用炉心冷却装置も注水不能という、いわゆる15条事象が起きたと。これは経産大臣のところにそういう報告が来たのは16時45分と開いております。

15条事象は、原災法が定める、原子炉の緊急事態を指す。

官邸の方では、その少し前の16時36分には、東京電力福島第一原発における事故に関する官邸対策室を設置いたしておりました。その後、保安院等から説明がありましたが、この15条問題について説明があったのは、17時42分に経産大臣の方から私に対して、原災法15条事象等の状況に関する必要な報告が上がってまいりました。原子力緊急事態宣言にかかる上申書の提出をいただいたわけであります。

この問、短時間でありますけれども、与野党党首会談に5分ほど出席をして退席をいた
しまして、19時3分に原子力緊急事態宣言を発令し、原子力災害対・策本部を設置し、そして第1回の原子力災害対策本部を開催する。これがこれまでの経緯だと認識しております。

ブログ『首相動静ウォッチャー』に転載されている時事通信の首相動静によると、菅首相は18時12分から5分間、与野党党首会談に出席している。

【質問者】
海江田大臣が17時42分に来る前に、どこかの時点で福島第一原発について全交流電源の喪失とか、冷却機能の喪失をしたという報告をお受けになっていると思うんですが、それはどういう状況でお聞きになったか御記憶はございますでしょうか。

【菅前総理】
17時ごろに保安院と東電関係者ですから、武黒フェローから状況説明を聞いたというふうに記録がなされております。この段階で聞いた中身については、15条については16時45分ですので、そのこと自体の通報があったということは、まだその時点では伝えられていなかったと認識しています。

武黒フェローは、東京電力の武黒一郎フェロー。

【質問者】
保安院は寺坂院長をお呼びになって、寺坂院長からお話をお聞きになったとい
うことでよろしゅうございますか。

寺坂院長は、寺坂信昭原子力安全・保安院長を指す。経済産業省出身。

【菅前総理】
最初は固有名詞が余りわからなかったですから、責任者に来てくださいということで、保安院、原子力安全委員会、東電、これが当事者を含めた3者でありますので、基本的には常に責任ある立場にあるそれぞれの代表が来て、そして経産大臣とか、直後は官房長官とかも同席する機会が多かったですから、話を聞いていました。

【質問者】
最初に保安院を呼んだときの福島第一原発についての状況とか、どんな状況なのかということについては、どんな御認識を持たれていましたでしょうか。

以降、菅総理は保安院長に対する不満を続ける。

【菅前総理】
今、言いましたように、多分最初は保安院の寺坂院長が来られたんだと思いますが、その場でどういう表現をされたかは、具体的な言葉はよく覚えていません。ただ、
非常に率直に申し上げて、寺坂院長の説明は内容を開いてもよくわからなかったんです。

ですから、そういう意味では、必ずしも技術的な状況がわかった上での説明では、少なくとも私にはそういうふうに受け止められませんでした。理解がよくできていないという感じがしました。

【質問者】
総理としては、どういう点を説明してほしいとか、どういう点を知りたいとい
う御関心があったのでしょうか。

【菅前総理】
それは現在の状況ですね。炉でいえば、つまりは全電源が喪失していると。冷却機能が停止していると。それがどういうことを意味するのか。それが回復できるのかどうか、あえて言えば、その原因はどこなのかとか、それを回復するにはどうしたらいいのかとか、あるいは見通しはどうなっているとか、そういう原因なり、今の状況なり、今後の見通しなり、当然それを専門家だと思っていましたから、つまり、原子力安全・保安
院というのは、行政の中では最もまさに安全・保安をする当事者ですから、その責任者がどういう状況認識をして、どういう見通しを持っているのか、そういうことを聞かせてもらいたいと思った。

一般の平時の他の行政部門では、逆に説明に来る方が、この場合もそうですが、大臣や
総理よりも専門家ですから、どちらかと言えば、聞かなくてもちゃんとそういうことはきちんと説明があるわけですから、当然そういう説明があるだろうと思って開いていたわけですが、それが十分な説明になっていなかったんですね。

【質問者】
そういうのが十分でなかったので、東電の担当者とか、東電の関係者をお呼び
になったという状況ですか。

【菅前総理】
そうではありません。東電は事業者ですから、実際に炉の運転をしているのは東電そのものですから、当然、事業者である東電からも直接というか、東電のきちんと説明できる人が来て説明してくれと。原子力安全委員会は、勿論きちんと法律で位置づけられた何らかがあったときには助言をするとか、これも原子力の専門家ですから、それぞれ性格は違うけれども、こちらが不十分だからだれかを呼んだということではありません。
この3者は、常に私にとっては必要な、あるいは制度的にも必要なそれぞれの立場での責任ある立場という認識で呼びました。

【質問者】
わかりました。東電の担当者は、多分武黒フェローとか数名の方が来られたと思うんですけれども、説明の内容についてはいかがですか。、わかったとか、わかりにくい説明だったのか、なかなか納得のできる説明がなかったとか、どんな印象をお持ちになったでしょうか。

【菅前総理】
これは最初のときだけの印象がどうだったかと言われるのは、なかなか瞬間ですから、その後、ずっとかなりいろいろな経緯が続くわけですけれども、東電の元の技術担当の副社長ということを後で聞きましたが、少なくとも、炉のこととか、そういうことについては、そういう意味では納得がいきました。ただ、そのときの事態がどういう状
況にあるかというのは、これはまた残念ながら、必ずしも十分な情報を持っておられなかったのではないでしょうか。さっきの寺坂さんとはちょっと意味が違います。

【質問者】
リアルタイムの状況なり、現場の状況がわかっていないということですか。

【菅前総理】
情報を持っておられなかったのではないでしょうか。だから、いろいろ問い合わせをされていました。寺坂さんの場合は、その状況の前に、簡単に言えば、炉とか何とかのことについての基礎的な認識が必ずしも十分ではなかったので、私も最初にそういうふうに感じたのではなくて、何回聞いてもよく理解できないものですから、どういうことなんですかとつい聞いてしまったんですね。

いろいろ報道で出ていますけれども、専門家ですかと開いたら、そうではないと言われたので、まさかこの原子力安全・保安院の事業を対応する責任者が原子力について専門的な知識を持たない人がなっているというのは、勿論、当時は私の部下でありますから、そういう意味では、私にも行政の在り方としては、広い意味では責任があるのですが、やはり率直に言ってびっくりしましたよ。

国会事故調の報告書は、結論の中で「規制当局は原子力の安全に対する監視・監督機能を果たせなかった。専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり、規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで、事業者の利益を図り、同時に自らは直接的責任を回避してきた。規制当局の、推進官庁、事業者からの独立性は形骸化しており、その能力においても専門性においても、また安全への徹底的なこだわりという点においても、国民の安全を守るには程遠いレベルだった」と指摘している。

【質問者】
十分な説明も得られない中で、海江田大臣が緊急事態宣言の必要がありますということで来られたという順番になりますでしょうか。

【菅前総理】
順番というのか何というのか、もともと15時37分に全交流電源が喪失していますし、15条の通報が16時36分に経産大臣に出されていますから、だから、それを受けた経産大臣、つまりは、その経産大臣の下にある原子力安全・保安院がそれを受けて、当然ながら、総理の私は本部長ですから、本部長になることになりますから、私のところに伝えるというのは、ごく自然なのではないでしょうか。それを受けたとか受けていないというよりも、順番は多分そういう順番ではないでしょうか。

【質問者】
わかりました。15条通報の事態が発生して、緊急事態宣言の発出の必要がありますということは、海江田大臣から上申があったわけですけれども、そのときの状況といいますか、海江田大臣の説明は。

【菅前総理】
今のご質問の意味がちょっとあれなんですが、全部同じことですね。つまり、私のところに来られたのは、多少の細かい何時にどうなったというそこまでの私自身の記憶が、時間単位、分単位までありませんので、後でしっかりフォローしてみたところでは、17時ごろ一旦保安院などからそろそろ説明を受けているけれども、その段階では、まだ15条のことの説明ではなかったと。17時42分に経産大臣から15条についての説明があって、そして、上申書が提出されたという認識です。

【質問者】
海江田大臣等からお話を聞きますと、緊急事態宣言の必要について説明したんだけれども、すぐには了解をいただけなくて、そのうちに与野党党首会談の方に行かれて、その後、戻ってってこられてから了承をいただいたと聞いておりますが、即座に了承するということにならなかったのは、どういういきさつからだったかというのは御記憶はありますでしょうか。

菅首相は、緊急事態宣言のタイミングに関する考えを述べている。

【菅前総理】
私の認識では、これは15条事象が起きれば、緊急事態宣言を発令する、あるいは本部を設置するというのは必須のことだと理解しています。ですから、別に私が躊躇(ちゅうちょ)したというよりも、説明の場合によったら、途中に与党党首会談が予定されていましたので、短時間ですけれども、そこに行って、5分で戻ってきていますが、そういう後に更に聞いて対応したと。

そういうふうに何か理由があって、それを遅らせる理由は、全く当時も今もありません。先ほど言いましたように、16時36分にもう既に官邸対策室はできています。もっと言えば、震災、津波については、本部も立ち上がっています。もう地下の危機管理センターは全閣僚あるいは全省庁が地震、津波の対応では、もう既に集まってきておりました。ですから、それに重なった形で、組織をつくることに当然なります。そういう意味で、特に何かここで遅らせたということはありませんし、逆に言えば、19時3分に発令して設置したことで、何か必要な作業が遅れたということも、私はなかったと認識しています。

【質問者】
そうしますと、海江田大臣が来られて、もう少し詳しく状況が把握できないと了承できないだとか、あるいは制度についてもう少し詳しくわからないと宣言できないとお考えになったわけではないということですか。

【菅前総理】
全くないです。

(続)
Source: 内閣官房

(小島寛明)